新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「あの、私は……」
「その無駄な労力、もっと他のことに使ったらどうかしら?」
エッ……。
後ろから声が聞こえて、思わず振り返った。
「たとえば、仕事とか。仕事とか、仕事とか」
折原さん。
「何ですって? 貴女、誰に向かって言ってると思ってるの? いったい、何様のつもり?」
黒沢さんの取り巻きが、すかさず折原さんに詰め寄った。
「私? 私は神様でもないし、何様でもない。単なるこの会社の一社員なだけ。だけどね、同じ社員である身内を貶めるような言動は、どうしても許せないんだわ。ああ、誰に向かって言ってるのかも聞かれてたわね。それは勿論、黒沢さんに向かってよ。直ぐ傍で見ていて、分からない?」
「ちょっと、貴女」
「だから、私は折原って名前があるのよ。貴女って苗字じゃないから」
折原さんが、スッと私の前に立って黒沢さん達との間に入ってくれた。
「聞いてれば、いい気になって。貴女、私より下よね?」
「そうですよ? でも役職は黒沢さんより上だと、前にもお話しましたよね? あらら、もう忘れちゃいました? それなら、今度こそメモにでもとって覚えておいて下さい」
「……」
烈火の如く、黒沢さんの顔が真っ赤になっていき、爆発寸前なのが分かる。
「でも、そんなちっぽけな底辺の争いなんて、それこそ労力の無駄。同じ会社の社員同士、まして同じ部。どうして、もっと後輩に優しくなれないんです? それとも、自分もされてきたから目には目を的な、そんな愚かな思想をお持ちなんてことないですよね?」
折原さんは、何時も以上に黒沢さんにはっきり言い切っている。
「そんな馬鹿げてる面倒な考えなんて、起こしてないわよ。事実を述べたまでよ」
「事実? また、お得意の妄想癖が出たのかしら?」
「何ですって! 口の利き方に注意しなさいよ」