新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「……」
「えっ? そうなの?」
明良さんが、驚いたように高橋さんを見た。
そんな当の高橋さんは……というと、助手席で何故か右手で顔を覆っている。
エッ……。
な、何か、私……まずいこと言っちゃった?
「ふーん……」
明良さんは、意味深な言い方で高橋さんの顔を覗き込んでいる。
「ほら、青だ、青」
高橋さんが、フロントガラスに向かって指さすと明良さんも慌てて車を発進させて、それから程なくレストランに着いた
今日は、明良さんが久しく食べてないと言っていた、お豆腐料理のお店にしようと車に乗った時点で決めていた。駐車場に車を停めてお店の入り口へと歩いていく途中、明良さんが隣に来て一緒に並んで歩いていたが、右手に持っていた車の鍵をくるくる回しながら、前を歩く高橋さんを見てクスクス笑ってる。
「明良さん。どうかしたんですか? あの、何かあったんですか?」
明良さんが、何で笑っているのか分からなかった。
「ううん。陽子ちゃんのナイスな発言が聞けたから、今夜は楽しくなりそうだ」
「ナイスな発言? 私、何か言いました?」
何だろう? 自分で何を言ったのか、まったく思い当たる節がない。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると、いつものように個室に通された。
何時来ても、庭園の佇まいといい、建物の雰囲気といい、このお店は落ち着けるので、かなりお気に入りになっている。けれど、何度連れてきてもらっても道順も分からず、自分では来られない。情けないけど、方向音痴だから……。
「俺、ビール」
「ハッ? 何? その決め台詞のような言い方」
店員さんがオーダーを取りに来る前に、高橋さんはメニューも見ずに言ったからか、すかさず明良さんに突っ込まれていたが、高橋さんはそんな明良さんを無視するようにメニューを見ている。
「あ、あの……」
「陽子ちゃん。何にする?」
「えっ? 私は、その……えーっと……」
「デザートの付いてる、いつものでいいか?」
「あっ、はい」
「これだよな?」
高橋さんが、メニューを指さして聞いてくれた。
「はい。それです」
高橋さん。怒ってなくて、良かった。いつもと変わらず、優しく聞いてくれて。
「ハハッ……。陽子ちゃん。満面笑みだね。そんなに、好きなんだ」