新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「いいから、行くぞ。玄関場所取ってるから、明良はさっさと外に出ろ」
高橋さんは、玄関のドアを開けて明良さんの背中を押すと、まだ後ろで靴も履いてなかった私を先に行かせてくれた。最後に出た高橋さんが、一旦、玄関のドアの鍵を締めたが、また鍵を開けて部屋の中に入っていったので、明良さんと2人で先に歩き出してエレベーターを待っていた。
そうだ!
「あの、明良さん。この前メールを頂いた週末の件なんですが、何かあるんですか?」
すっかり、連絡するのを忘れていた。
すると足音がして、高橋さんが近づいてくるのが分かった。
「また、後で話すから」
そう明良さんは小声で私に言うと、ちょうど来たエレベーターに私を先に乗せてくれて、追いついた高橋さんが乗ると閉のボタンを押した。
「護身術は、使わずに済んだの?」
「えっ?」
明良さんが、エレベーターの中でいきなりそんな風に問い掛けてきた。
でも、何でそんな聞き方なんだろう? 高橋さんが、明良さんに話したのかな?
「何か、陽子ちゃん。この前会った時よりも、明るくなったからさ」
「そ、そうですか?」
そうなのかな? それじゃ、あの時はそんなに暗い顔してたってこと? 自分ではよく分からないけれど、明良さんはお医者さんだけあって、患者の表情とかもよく見てるからか、鋭いな。
「どうなの?」
「ん? 飛んだ」
「ふーん……」
私を挟んで立っている高橋さんと明良さんが、頭の上で会話をしている感じだ。
2人共、本当に背が高い。というか、私が低いのか。
エレベーターのドアが開き、私を最初に降ろしてくれる。そんな何気ない2人の動作も去ることながら、先ほどのような簡潔な会話のやり取りを聞いていると、何処までもお互いのことを理解し合っているのがよく分かる。きっと、隠し事なんて出来ない相手だろうなぁ……。ふと、そう思いながら、まゆみの顔が浮かんだ。
結局、マンションの客用駐車場に停めてあった明良さんの車で行くことになったが、ご飯を食べに行く途中、明良さんが高橋さんにしきりに突っ込んでいた。
「だから、何で俺が運転なわけ? お前だって、出来るジャン」
「もう車しまっちゃったから、また出すのも面倒だし」
「だったら、貴博が俺の車を運転して行けばいいジャン」
運転すると飲めなくなるからということが、どうも明良さんは引っ掛かっているらしく、譲れない部分らしい。
「ねえ? 陽子ちゃんも、そう思うでしょ?」
信号待ちの時に、明良さんがチラッと後ろを振り返り同意を求めた。
うわっ。
私に振られても、こ、困るな。
「そ、そうですけど……。でも、高橋さん。さっき明良さんが来る前にビール飲んじゃったから、もう運転出来ないんですよね?」