新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「ああ、あの……わ、私、何だか疲れているみたいなんで、もうそろそろ帰りますね」
自分でも驚くくらい早口でまくし立て、慌ててソファーから立ち上がった。
「わわっ」
すると、後ろから高橋さんにセーターを引っ張られて、そのまままたソファーに座らされて、その反動でソファーの背もたれに思いっきり背中をもたれ掛けてしまい、慌てて直ぐに身体を起こそうとしたが、高橋さんに右肩を押さえつけられてしまい、上手く起きあがれなかった。
「フッ……忙しい奴」
呟くように高橋さんは優しく、そして怪しい微笑みを浮かべながら私の両頬を両手で包み込んだ。
「俺は、きっと……」
高橋さんは右手だけを動かし、私の左頬の内側から外側へとなぞるように、ゆっくり静かにそっと触れていた。その表情は、いつも私に見せる真面目な高橋さんの顔ではなく、時折、仕事中に見せる顔。そう……。計り知れないほど、ストイックなまでに上を目指して誰よりも自分に厳しいそんな表情。その真剣な眼差しが、私の瞳を捉えて離さない。
どうしたの?
「高橋……さん?」
スローモーションのように高橋さんの唇が開き、少し肩が揺れて空気を吸い込んだので、言葉を発しようとしている様子が私の目にも明らかに分かった。
そして、ただでさえ今置かれている状況に緊張しているのに、高橋さんの次の言葉を待っている時間が物凄く長く感じられ、体中が脈打って心臓が飛び出しそうだった。
「お……」 
ピンポーン。
高橋さんが言い掛けた時、ちょうどインターホンが鳴った。
エッ……。
思わず、高橋さんと顔を見合わせたが、直ぐに高橋さんはキッチンのカウンター脇にあるインターホンのモニター画面の方を見た。