新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「あの……もしかして、ドジなお嬢さんって私のことですか?」
「他に、誰が居る?」
高橋さんが、辺りを見渡す素振りを見せた。
うっ。
「もう、此処はいいから向こう行って座ってろ」
「えっ? あっ。大丈夫です。あの……」
「い・い・か・ら」
高橋さんに、背中を押されるようにしてリビングのソファーに連れて来られてしまった。
「此処で、大人しく座ってろ」
高橋さんは、ソファーに座った私の頭をポンポンと軽く叩くと、またキッチンに入って行った。
駄目だなぁ……何にもならないじゃない。泊めて貰った挙げ句、朝ご飯の支度までしてもらっちゃうなんて。
大きな溜息をつきながら、高橋さんに言われたとおり大人しくソファーに座ってキッチンに立っている高橋さんの方をずっと見ていた。
高橋さんが作ってくれた美味しい朝ご飯を食べ終わって後片付けをしていると、インターホンが鳴った。
「この静寂も、ここまでか……」
そんなことを呟きながら高橋さんが食器をキッチンに置くと、玄関の方へと向かっていった。後片付けもさせて貰えなかったので、高橋さんを目で追いながらやっぱり素敵だと改めて思いながら、その後ろ姿に目が釘付けになってしまっている。
「陽子ちゃん。オッハー!」
「明良さん。おはようございます」
「ああ。いいから座って、座って。どの指切ったって? 駄目だよぉ? 切るんだったら、食材だけにしとかなきゃ」
痛いところを突かれて、無言になってしまった。
「あっ。ごめん、ごめん。冗談だよ、陽子ちゃん。ちょっと診せて?」
明良さんが私の左手に触れようとして、一瞬、躊躇いながら高橋さんの方を見た。
エッ……。
でも高橋さんは、ただ頷くだけで何も明良さんに言わなかったので、明良さんも軽く頷くとまた私の方に向き直った。
「左手、俺が触れても平気?」
「あっ……」
昨日、明良さんに抱き締められた時、怖くて震えてしまったんだった。明良さんに、謝らなきゃ。 
「明良さん。昨日は、ごめんなさい」
「えっ? 何がぁ? だって俺、此処から歩きで帰るのも面倒臭くて嫌だっただけだからさ。陽子ちゃんが、昨日送ってくれたお陰で助かっちゃったよ。Thank you!」