新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

嘘。
た、大変。気づかれちゃった。
「い、いえ な、何でもないです」 
「何? もしかして、此処にして欲しかったのか?」
高橋さんが横向きになって左腕で肘枕をしながら、右手の人差し指で私の唇を軽く何度か押したので思わず頷いてしまった。
あっ……嘘。
な、何で、頷いたりしてるのよ。
うわぁ。どうしよう。
これじゃ、まるでキスして欲しいって言ってるのと同じ……肯定の意味の頷きじゃない。
でも高橋さんは、何も言わないから暗くて気付かなかったのかもしれない。
どうか、気付かないでいて欲しい。
ううん。もし気付いていたとしても、お願いだから気づかないふりをして欲しい。
横向きになって肘枕をしていた左腕を外した高橋さんの顔が、真上に来た。
お願い……高橋さん。
何も見なかったことに……。
「フッ……しょうがないなぁ」
あっ……。
唇が軽く触れるだけのキス。
同時に、高橋さんの体もまた元の右側にずれた。
キスをされたことの恥ずかしさより、自分から催促したというか、おねだりしたみたいになってしまい、もう顔から火が出そうだった。
でも、幸い暗いのでそこまでは気づかれていないかもしれない。それに……唇が軽く触れるだけのキスだったから、まだ良かった。これが、高橋さんのあの深いキスだったら……。それこそ、とろけそうになって大変だ。考えただけでも、ドキドキする。
落ち着きを取り戻そうと、胸に手を当てて真上を向いたまま呼吸を整えていた。
「うっそぉ」
エッ……。
何事かと思い、首だけ右側に寝ている高橋さんの方へ向けた。
「キスして欲しいって言われて、これだけで終わるわけないだろ?」
嘘……。
高橋さんの両手が、私の両頬を包み込んだ。
ま、待って。
心臓が破裂しそうで、苦しくて声も出なくなってしまった。
間近に迫った、高橋さんの顔。
触れられている髪。
高橋さんが怖いとか、嫌とか、そういう意味とは別の意味で緊張して体が震えている。
誤解されたら困るから、気づかれないようにしないと。
落ち着け、私。
そんな自分の意思に反して、体はまったくいうことをきいてくれない。
高橋さんの右手が、私の髪を手ぐしで左サイドに掻き分けた。
高橋さんに髪を掻き分けてもらいながら、優しく、そして穏やかになれる温もりを左頬に触れる高橋さんの右手に感じて、思わず目を瞑ってしまう。
「お前、震えてる」
ああ……やっぱり震えているのが分かってしまった。
「無理しなくていい」
高橋さんの言葉に目を開けると、目の前に迫った高橋さんの顔があった。
「お前に、そんな無理をさせてまでしようとは思わない」