新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

高橋さんの顔をまともに見られなくて、焦って左手に持っていたバッグを床に落としてしまった。
うわっ。最悪だ。
とんでもないことを、口に出しちゃった。早く、ゲストルームに行っちゃおうかな。
「フッ……。馬鹿な奴」
高橋さんは、少し下を向いて微笑んでいた。
ああ、恥ずかしい。高橋さんも、気付いてる。
「お、おやすみなさい。キャッ……」
焦りながら急いでまたバッグを持ってゲストルームへと行きかけたが、高橋さんに手首を掴まれてしまい、驚いて振り返った。
「今夜は、こっちぃ」
「えっ?」
「俺と、一緒だ」
う、嘘……。
高橋さんが、引っ張るように左手で私の右手を握った。
「あ、あの……」
もう心臓が悲鳴を上げて破裂しそう。早く何とかしてと言うように、鼓動がハイスピードでアタックしてくる。
高橋さんに、こうやって手を握られたのも初めてで、しかも今夜は俺と一緒って……。もう、卒倒しそうだ。
リビングから、あっという間に寝室に連れて行かれてしまい、心の準備どころか、時間稼ぎをする余裕も与えてもらえなかった。
高橋さんが寝室の手前にあるリビングの電気を消して、ベッドルームの電気を点けた。
うわぁ。
やっぱり、どの部屋も私の部屋より綺麗。きちんとベッドメイキングもしてある。前に、この部屋に入った時は余裕がなかった。怪我もしていたからそのまま寝てしまい、翌朝も直ぐに部屋から出てしまったので、部屋の中をよく見てなかった。今、改めて見渡してみると、ベッドの脇に机とその奥に書棚があって、ズラッと本が並んでいる以外は、殆ど家具という家具は置かれていないので、とても広く感じられる。その家具も、シンプルにすべて黒で統一されていた。
高橋さんが手を離してベッドの端に座ると、ベッドの左側の空いてるスペースをポンポンと左手で叩きながらこちらを見た。
もしかして、そこに座れということ?
でも……何だかすんなりと座れない。
「はぁやぁくぅ」
うっ。