新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

高橋さんは人差し指で、言葉に合わせるようにリズムをとった。
「立って」
「キャッ……」
高橋さんに腕を掴まれて、座っていたソファーから立たされた。
「うわっ。キャーッ!」
すると、いきなり高橋さんが後ろにまわって、背中から私を羽交い締めにした。
「い、嫌! た、高橋さん。離して下さい。何するんですか?」
必死に高橋さんを振り解こうとしたが、男の人の力に敵うはずがない。
「や、やめて下さい」
「いいから、言うとおりにしろ!」
耳元で高橋さんが少し大きな声を出したので、その声に驚いて動けなくなってしまった。
高橋さんに言われて動くのをやめたが、怖さが先に立って震えが止まらない。
「いいか? 今から、俺の言うとおりに行動してくれ。分かった?」
怖さと不安から、ぎこちなく頷いた。
「両肩を内側に窄めて、両肘が俺の腕から抜けるようにして」
高橋さんに言われたとおり、両肩を内側に窄めてみる。
すると、不思議と高橋さんに押さえられていた両肘が、高橋さんの両腕から隙間が出来て少し自由になった。
「抜けたらその瞬間に、どっちの肘でもいいから思いっきり俺を肘で殴れ」
「えっ? そ、そんなこと無理ですよ」
そんなことしたら、高橋さんが痛い思いをしてしまう。
「大丈夫だから、遠慮するなよ? じゃあ、もう1回な」
高橋さんが両腕を離して私を自由にすると、また先ほどと同じように後ろから羽交い締めにした。
「抜いて」
「は、はい」
あっ。抜けた。
「直ぐ、肘で殴って」
「はい」
ドスッと鈍い音がして、高橋さんの両腕が瞬時に私から離れた。
嘘……。
慌てて、後ろを振り返った。
「大丈夫ですか? 高橋さん!」
見ると、高橋さんは右目でウィンクをしながら、私が右肘で殴ったところを左手で押さえていた。
「ごめんなさい。私……あ、あの……どうしよう。本当に、すみません。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。でもお前、見かけに寄らず怪力だな」
「そ、そうでしょうか? 本当に、大丈夫ですか?」
何だか、高橋さんに怪我をさせてしまったみたいで心配だ。
「いや、お前と身長差があるから丁度いい。これは、使えるな」
「何を言っているんですか、高橋さん。そんなことを言っている場合じゃないですよ。本当に、大丈夫なんですか?」
私のせいで……どうしよう。
「鳩尾に入っただけだから、大丈夫だ。ほら、次いくぞ」
エッ……