新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「はい。すみません。なかなか出来なくて」
そんな私を見て、高橋さんは微笑んでくれた。

緊張の連続だった運転から解放されて、高橋さんの部屋に着いたのだが、先ほどのことを思い出したら落ち着かなくなって、荷物を持って玄関に立ったまま心臓が破裂しそうな鼓動を聴きながら部屋に上がるに上がれずにいた。
「そんなところに突っ立ってないで、上がれば?」
うっ。
そ、そんな……どうしよう。
高橋さんは部屋の鍵をテーブルの上に置くと、自室に入っていってしまった。 
緊張して、足がガクガク震えている。
高橋さんが居ないうちに、このまま逃げちゃおうかなどという悪魔の囁きまで聞こえてきたけれど、それも出来ずに靴を脱いでスリッパに履き替えて、取り敢えずリビングに入ったはいいが、ソファーにも座れずに立っていた。
ドアが開いて、高橋さんが着替えて自室から出てきたが、そのドアの開く音にすら敏感に反応してしまう。
高橋さんは、いったい私に何をしようとしているんだろう?
恐怖心を取り除いてくれるって言っていたけれど、それはどういう意味なんだろう?
「お前さあ、何でそんなにビクビクしてるんだ?」
「えっ? そ、そんなことないですよ」
高橋さんに見透かされて、必死に誤魔化した。
「何か飲むか? ああ、その前に座ったら?」
「えっ? あっ……ああ、は、はい」
高橋さんに言われて慌ててソファーに座ると、キッチンに向かった高橋さんが冷蔵庫を開けて缶ビールを2本持ってリビングに戻って来ると、直ぐ隣に座った。
一瞬、心臓が飛び跳ねた気がする。
「はい。運転お疲れ様」
缶のプルタップを開けてくれてビールを私に渡してくれると、高橋さんも自分で開けてビールを飲み始めた。
「頂きます」
慣れない運転と緊張からか、喉が乾いていたので思わずゴクゴク飲んでしまい、高橋さんが缶ビールをテーブルの上に置いたのを見て慌てて飲むのをやめると、高橋さんの動作を目で追っていた私の瞳を誘導するように人差し指を立てて私の鼻の頭にのせた。
エッ……。
な、何?
その意図が分からず、高橋さんを見た。
「困ったも・ん・だ」