新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

これが、いつも高橋さんが握っているハンドル。
うわぁ。
そのハンドルを、私が握って運転しているんだ。考えただけで、緊張してきちゃう。
運転席から助手席を見ると、こういう感じなんだ。思っていた以上に、意外と近いんだ。助手席の方を見ながら何気なくチラッと見ると、高橋さんは背中を向けているので分からなかったが、こちらを向いている明良さんは真剣な表情で話をしているのが分かる。 
何か、大事な話をしているのかな?
ジッと見ているのは悪いと思い、また直ぐに運転席から前を見ながら話が終わるのを待っていた。
高橋さんと明良さんの話が終わって、助手席に高橋さんがまた座って、明良さんはその後ろに座ると、再び、高橋さんの道案内で高橋さんのマンションまで向かうことになったが……。
あれ?
途中、運転していて何だか少し何時もと景色が違うような感じがする。
もしかしたら、私が走りやすい道を選んでくれているのかもしれない。そんな勝手にいいように解釈をして、高橋さんの指示通りに運転を続けていた。
「あっ。此処でいいよ」
いきなり明良さんが、そんなことを言い出した。
「そこの白い車の後ろに、車停めて」
「えっ?」
高橋さんまでもが、そんな指示を私に出している。
何処かに、また寄るの?
「ほら、早く車寄せて」
「あっ。はい」
急いで後方確認をしてから、高橋さんの指示通りに白い車の後ろに車を停めた。
「じゃ、またねぇ。陽子ちゃん。Thank you! 貴博。またな。おやすみ」
「じゃあな」
「えっ? ええっ?」
そう言って明良さんは車から降りると、後ろの方に歩いて行ってしまった。
何が何だか分からなくて、明良さんが歩いて行った後ろを見ながらキョロキョロしていると、間もなく明良さんの姿が見えなくなってしまい、同時に高橋さんと目が合った。
「明良さん。何処に行っちゃったんですか?」
「ん? 家に帰った」
「えっ? な、何でですか? 高橋さんの家に、泊まるんじゃなかったんですか? それじゃ、まるで私が追い返しちゃったみたいじゃありません? だから私が高橋さんの家に着いたら、タクシーで帰るからって言ったのに……。明良さん。何で……」
明良さん。何で、家に帰っちゃったの? それに……どうして、言ってくれなかったんだろう?
「俺が、頼んだんだよ」
「えっ?」
「俺が、明良に今日は帰ってくれって頼んだんだ」
嘘。
高橋さんが? どうして?
「何で……どうしてですか?」
「何時までもこのままじゃ、まずいだろ?」
「何が……ですか?」
「お前のその恐怖心、俺が取り除いてやるよ」