新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「どうぞ。トイレは、あちらですから」
「ありがとう。お借りしまーす」
明良さんがトイレに入っている間に、お泊まりセットの支度を始めた。
あれも持って行きたいし、これも持って行きたい。あっ。これも必要だ。
急いでクローゼットから出したボストンバッグに、思いついたものから詰めていき、部屋中走り廻っていた。
そんな光景をトイレから出て来た明良さんが、目の前を何度も横切る私を首を動かしながら目で追っているのが分かった。
「あの、明良さん。もう少し時間が掛かると思いますので、ソファーにお掛けになって待っていて頂いてもいいですか?」
「OK! 急がなくていいからね」
「はい」
ざっとお泊まりセットの用意をして支度が出来たので、明良さんと一緒に部屋を出て鍵を閉めると、明良さんがボストンバッグを持ってくれた。
「あの、持てますから大丈夫です」
「いいよ。俺、手ぶらだから」
「すみません。ありがとうございます」
エレベーターを待っている間、気になっていたので明良さんに聞いてみた。
「高橋さんは、何で急に私に泊まるようにと、言い出したんですか?」
「うーん……何でだろうね? でも……きっと陽子ちゃんと、一緒に居たかったんじゃない? コノコノー」
エッ……。
明良さんに肘で突かれながら、冷やかされてしまった。
「あ、明良さん。もう、そ、そんな冷やかさないで下さい」
「それにしても、陽子ちゃん。いったい貴博の家に、何泊するつもり? この荷物の量からすると、1週間位かな?」
「えっ? そ、それは……」
「ハハッ……。いいんだよ。女の子は、どうしたって荷物多くなっちゃうもんね。さあ、行こう。貴博が待ってる」
「は、はい」
エレベーターを降りて外に出て車に戻ると、高橋さんは助手席のドアにもたれ掛かりながら煙草を吸っていた。
「お待たせ」
「すみません。お待たせしました」
「待ち疲れた」
うっ。
チラッと横目で高橋さんは私を見ると、空に向かって煙草の煙を吐き出した。
やっぱり時間が掛かり過ぎて、長い時間待たせちゃったのかもしれない。
1人で焦っていると、高橋さんが煙草を吸っているのを見て明良さんも吸いたくなったのか、私の荷物を後部座席に置くと、高橋さんと向き合うようにして煙草に火を点けた。
「陽子ちゃん。寒いから、先に乗ってていいよ」
「あっ、はい」
明良さんがそう言ってくれたので、そうさせてもらおうと思って運転席側に向かうと、高橋さんが前から来て、黙って運転席のドアを開けてくれた。
「すみません。ありがとうございます」
運転席に座って待っていると、車の外で高橋さんと明良さんの話し声が聞こえていたが、内容まではよく聞こえなかったので、普段落ち着いて見ることのできない運転席の周りを見回していた。