新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

何でだろう?
明良さんが、怖かった? 
明良さんは、そんな人ではないと分かっているのに……。自分のとった行動と反応が、理解出来ない。
「……ってたらな……」
「……持ってないよね?」
エッ……。
不意に明良さんに話し掛けられたが、聞き損なってしまった。
「えっ?」
「明良が、まさか車の免許持ってないよな? と、聞いてる」
「私……ですか?」
「やっぱり、そうだよなあ。陽子ちゃんが、車の話してるの聞いたことないしね」
「明良さん……」
「ああ、気にしないで。貴博が運転するから、大丈夫」
「ハッ? 何で、俺なんだよ」
「だって、貴博の車だろう? 他人が運転したら、申し訳ない。それに、貴博だって落ち着かないんじゃない?」
「別に。じゃあ、明良は歩いて帰れよ」
「何でよ? こんな駅から離れてるところなのに、路頭に迷わせる気か?」
始まっちゃった。
高橋さんと明良さんの、聞いているだけなら喧嘩しているの? と、思えるような会話。
「だから、お前が運転すれば送っていってやるから」
「何で? 俺が自分の家まで運転していった後は、どうするんだよ?」
「……」
「持って……ます」
「えっ?」
「何を?」
「あの……免許でしたら……持ってます」
「車の?」
明良さんの問い掛けに黙って頷くと、高橋さんと明良さんが顔を見合わせた。
「持ってるの?」
そして、明良さんが驚いた声で聞き返した。
「はい。滅多に、運転したことはないですが」
「今日、免許証持ってきてる?」
明良さんが、テーブルから身を乗り出すようにして問い掛けてきた。
「はい。いつも、身分証明書代わりに持ち歩いているはずなので。えーっと……あっ。ありました」
バッグの中から免許証を探して取り出すと、明良さんに免許証をスッと取られてしまった。
「へえ。そうだったんだ。そらならそうと、早く言ってよ」
「でも、運転したことは殆どないですから」
「大丈夫。右足で、2ヵ所踏むだけだから」
明良さん……。
「じゃあ、決まりだな」
高橋さんは、明良さんに左手の親指を立てた。