新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜

「矢島ちゃん。少し、真面目な話をしてもいい?」
「は、はい」
折原さんが信号待ちをしている時、こちらを向いてそんなことを言った。
「人を好きになるのも、思いを秘めることも、それは個人の自由なんだから誰に気兼ねする必要もないのよ。倫理的に、問題がなければね」
倫理的に、問題がなければ……。
「所謂、不倫は男も女も愚の骨頂ってこと。人を好きになるって、とっても素敵なことよ? 周りはね、他人の不幸は蜜の味じゃないけれど、モテる男を好きになってることを知ったり、モテる男との接点が自分より環境が良かったりすると、その途端、嫉妬半分、興味本位半分であることないこと言いふらすのが女のいやらしさだから。よくありがちなことで、どうか上手く行きませんように。なーんて願掛けしてるような女が存在することだってあるじゃない? だけどね、それは他人の無用なお節介。そんな暇人の言うことに左右されたり耳を傾ける必要なんて、1ミクロンもないから。あくまでも、自分を貫いていればいいだけのこと」
折原さん……。
きっと、噂のことを心配してくれているんだ。
「矢島ちゃん。人間、何事も最後は自分次第。その時は茨道でも、時が経って振り返れば懐かしい軌跡に見えるから」
「はい。ありがとうございます」
「あっ。それじゃ、私はこれから同期と飲み会だから。じゃあ、また明日。お疲れ様」
「は、はい。お疲れ様でした」
そう言って、折原さんは手を振ると行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、折原さんの背中がとても大人の女性に見えた。
もっと、私も頑張らなきゃ。
でも、現実は割り切れないもので、とても辛いな……。
最近、家に帰って玄関で靴を脱ぐと凄くホッとする。家に帰ってくれば、ヒソヒソと周りで話す声も聞こえないし、誰からも何も言われることもない。
着替えて遅い夕食を適当に作り、ボーッとテレビを観ながら食べているが、テレビを観ていても頭の中では、昼間、中原さんが言った言葉が蘇って溜息しか出て来ない。あまり食欲もなかったので、サラダだけ食べてやめてしまった。
しかし、折原さんに言われたことを思い出して、これではいけないとテレビを消してお風呂に入って気分転換しようとゆっくり湯船に浸かっていると、今度は高橋さんの昼間のメッセージを思い出してしまっていた。
先に帰ってきてしまったが、もしかして高橋さんはまだ会社の駐車場で待っていないだろか? まさか……どう考えても、もうこんな時間だし待っているはずがない。
お風呂から上がって髪の毛をドライヤーで乾かしていると、ちょっと髪の毛で遊びたくなって、ワックスをスプレーしてホットカーラーを巻きながら髪全体を5分割にブロッキングした。