ひと駅分の彼氏

私は息を吸い込んで覚悟を決め、空席に近づいた。


「今日はパジャマ?」


空席に座ろうとしていた真琴が笑って言う。


「うん。ちょっと寝坊しちゃって」


同じように笑って答えて、2人で並んで座った。


空席にすっぽりと収まるように座った私達にはもう誰も目を向けない。


「すごいね。この座席は真琴が開けておいてくれたの?」


「あぁ、必ず紗耶に会いに来たかったから。他の人にはちょっと迷惑だったかもしれないけどな」


真琴の声を聞きながらまた涙が出てきてしまった。


昨日散々泣いたのにまだ出てくる涙に自分でも呆れてしまう。


真琴はそんな私の手を握りしめて、なにかを思い出すように目を細めた。


「紗耶、去年の春のことを覚えてる?」


思い出は冬から始まって春になった。


もちろんそのときのことも私はちゃんと覚えている。