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 それから数日経った、ある日のことだった。


「お姉~~ちゃん!」


 清香の部屋の扉を、やけにご機嫌な様子の芹香がノックした。


「芹香、どうし……」


 戸を開けた瞬間、清香は口をあんぐり開けた。そこにいたのが芹香ではなかったからだ。

 愛しい妹の代わりに立っていたのは、えらく長身で、顔だけは妙に整っている、不愛想な男だった。男が身に着けているものは、現代で普段着にしている人間など殆どいないであろう狩衣で。


「崇臣!?」

「ジャーーン!ビックリした?実はね、崇臣さんがパソコンのこと詳しいって聞いて、呼んじゃいましたーー!」


 芹香はキラキラと女神の様な笑顔で、訳の分からないことを口にした。


「せり……?パソコンって、一体なんのために?」

「へ?そりゃあお姉ちゃんの本を作るため、よ!」


 呆然と立ち尽くす清香を余所に、芹香はドアを大きく開き、崇臣を中に招き入れる。
 崇臣は何も言わず、清香のベッドにどかりと腰掛けると、憮然とした表情で清香を見上げた。さっさと始めるぞ、とでも言いたげな顔である。