昨年個人誌を出した先輩が取り扱っていたのは、いわゆる同人誌というものだ。
 先輩曰く、文化祭のほか、即売会でも日の目を見る代物らしい。外見だけみれば、その辺の本屋に並んでいてもおかしくない、立派な装丁の本だった。それが芹香の目に留まったというわけらしい。


(中身はBL本だけどね)


 どうやら芹香は装丁を見ただけで、中身までは確認していないようだ。耐性のないない芹香が目を通せば、きっと卒倒したことだろう。前世から文化人で、幅広く文学に触れている芹香だが、今のところBL方面には行きついていないらしい。


「あんな感じにさ、お姉ちゃんの文章が本になったら……私、すっごく嬉しいんだけど」

(うっ……)


 キラキラと期待に満ちた芹香の視線が、清香へと突き刺さる。当然ながら清香は、昔から芹香のこの視線にとても弱いのだ。


「でっ……でも、やり方が分からないし!私、スマホはまぁ扱えるけど、パソコンは今のところ、ちょっと……。ほら、先輩も卒業しちゃったからさ!」


 清香としても、自分の書いたものが、現代でも本になったら素敵だとは思う。印刷所の取り扱う紙は凝ったものが多いし、形が整っているだけで本格度がグっと増す。けれど、それは現世を満喫した先にある目標であって、今ではなくても良いのだ。


「そっか。そうよね……ふぅん」


 芹香は、不服気にツンと唇を尖らせると、ボンヤリと上を向いた。


(……こりゃぁ諦めてないな)


 芹香は大人しそうに見えて、かなりの頑固者だ。そこがまた良いとは思うものの、姉としては、時に困らせられることがある。
 清香は改めて荷物をまとめると、こっそりと心の中でため息を吐いた。