薙野清香の【平安・現世】回顧録

「本当……芹香の言う通り」


 清香はそう言って、花びらのすべて散った桜の木をそっと見上げる。

 今は葉っぱだけになったこの木は、来年も、再来年も、それから先もずっと、春が来るたびに花を咲かせ、ここにあり続けるのだろう。清香たちが再会した、あの日のように――――。


 気づけば清香の手のひらは、先ほどよりも力強く握られていた。
 いつの間にやら和らいだ太陽の光を浴び、崇臣が柔らかな笑みを浮かべている。それは、前世では見たことのない至極幸せそうな表情で。清香の心を優しく温める。


(もっともっと、見つけていきたいな。私も、東條さんすら知らない、崇臣のこと)


 この男にはもっともっと色んな表情、感情が隠れていそうだ。
 そう思うと、今日が、明日が、もっともっと楽しみになってくる。清香は穏やかに瞳を細めた。


(それにしても、身体は時に、言葉よりも雄弁……よね)


 前世では言葉を尽くして『をかし』を語ったというのに、そんなことを思うのは、中々に不思議なことだ。

 けれど今、清香もきっと、これまでの自分では成り得なかった表情を浮かべて笑っているのだろう。そのことが、清香はとても嬉しい。

 爽やかな秋の風を浴びながら、清香は力強く、崇臣の手を握り返したのだった。