薙野清香の【平安・現世】回顧録

(あいつ……)


 どうやら立花には、前世の記憶が残っていたらしい。
 清香が最後に見た立花の笑顔は、とても晴れやかで温かかった。


(そっちこそ、元気でね)


 既にここにはいない前世の夫に向けて、清香が微笑む。すると、目の前にずずいと崇臣の顔が現れた。


「わっ! ちょっ!」

「いつまで感傷に浸っている」


 崇臣は不服そうに、眉間に皺を寄せていた。途端に清香の心臓が、バクバクとうるさく鳴り響く。


(っていうか崇臣、いつから聞いてたんだろう)


 そんな疑問が頭に浮かぶが、それを解消するだけの時間は与えられそうにない。
 苦笑いを浮かべながら、清香は崇臣を見上げた。


「もっ、もう少しだけ……」

「待たん」


 そんな崇臣の言葉を最後に、ヒグラシの鳴き声が二人きりの静かな公園に木霊した。