薙野清香の【平安・現世】回顧録

「そっか。……わかった」


 立花は清香の頭をクシャクシャと撫でた。清香の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。嬉しいような寂しいような、複雑な気分だった。


「それじゃあ俺は、未来の清香ちゃんの中に、俺という存在が残ってることを祈ってるよ」


 そう言って立花は、悪戯っぽく笑う。清香は思わず目を見開きながら、身を乗り出した。


「それはっ――――」

「それはない」


 その瞬間、清香の心臓が大きく跳ねた。

 立花の手を掴む大きくて白い手のひらに、清香の返事を遮る不機嫌そうな声音。
 顔を上げるとそこには、清香が今一番側にいてほしい人――――運命に背いても一緒にいたいと願う男がいた。


「崇臣……」


 清香の瞳には涙が溜まっていた。崇臣は立花を睨みつけながら、そっと清香を抱き寄せる。ふわりと漂う崇臣の香りに、清香は静かに目を瞑った。


「あっ、そう。まぁ……そうだよな。ハハッ」


 立花は崇臣を見ながら困ったような、それでいて楽しそうな声を上げて笑った。
 彼は膝についた砂を払うと、ゆっくりとその場に立ち上がる。
 崇臣は未だ警戒心を露に、立花を睨み続けていた。


「分かったから……もうそんな顔するなって」


 立花はクスクス笑いながら、清香を見つめる。


「よしっ。それじゃあ俺はこれで。…………達者で暮らせよ、右近」

「…………えっ?」


 清香が違和感に気づいた時には、立花は既に公園からいなくなっていた。