薙野清香の【平安・現世】回顧録

「じゃっ……じゃあ」

「でも」


 清香はそう言って、真っすぐに立花を見た。
 心臓は驚くほどいつも通り、鼓動を刻み続けている。心の中は靄もなければ霞みもなく、綺麗に晴れ渡っていた。


「私……もしも運命の人じゃなかったとしても、一緒にいたい人がいるんです」


 口にした瞬間、清香の眉間がじわりと熱くなった。視界が滲み、崇臣への気持ちが溢れ出す。
 立花は少しだけ目を見開くと、それから困ったように笑った。


「でも、もしもそいつと上手くいかなかったら? その時は運命の人である俺のところに来る?」


 立花の問いかけに、清香はふるふると首を横に振った。


「自分の道は過去の誰かじゃなくて、今の私が選んでいくって決めました。だから、仮にあいつと上手くいかなかったとしても……、その先どうするかはまだ分かりません。
それでも私は、今、自分がどうしたいか、きちんと向き合っていくことにしたんです」


 これまでの清香はずっと、前世の自分をなぞるように、上書きするかのようにして生きてきた。
 けれど、いつまでもこのままではいけない。
 まだ道筋のできていない今を、右近ではなく『薙野 清香』として生きていく。それが芹香や東條――――清香自身の願いだった。