薙野清香の【平安・現世】回顧録

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 チリンチリンとベルが鳴る。来客の合図だ。

 清香はそっと顔を上げて来訪者を確認した。
 日焼けした肌に、健康的な笑顔。前世の夫が、ドアの向こうに立っていた。


「いらっしゃいませ」


 清香がそう言って、立花を出迎える。けれど立花は、その場を動こうとはしなかった。


「ん……ねぇ、清香ちゃん。少しの間店を閉められるかな? 別の場所で話がしたいんだけど」

(来たか……)


 清香は深呼吸をしながら立花を見る。覚悟をしていたとはいえ、清香の背筋に緊張が走った。
 ややして自分を落ち着かせてから、清香はコクリと小さく頷く。

 店主から預かっている鍵と“外出中”プレートを片手に立ち上がると、清香は立花の元へ向かった。


「悪いね、わざわざ」

「いえ。私も話があったので」


 連れ立って歩きながら、清香は答える。


(まさか、昨日の今日で来るとは思わなかったけど)


 そんなことを考えていたら、ツン、と躊躇いがちに清香と立花の指先が触れ合った。


(あっ……)


 その瞬間、清香の手のひらは立花にギュッと握られてしまう。
 戸惑う清香を余所に、立花はニカッと人の良い笑顔を浮かべていた。


(やっぱりそうだ)


 間違いない。
 清香は何も言わず、ただ無言で歩き続けた。