薙野清香の【平安・現世】回顧録

 清香には東條の気持ちが痛いほどよく分かる。

 中宮は帝との三人目の子を出産した直後に身罷られた。当時、出産に伴う死では成仏ができないと信じられていた。だから清香も、もう一度中宮に会えるとは思っていなかったのである。


「悔しいことに、俺は宮の死に目にも会えなかった……だからこそ、亡くなったと聞かされて以降もずっと、信じることができなかった。
あの美しい笑顔にもう会えない、抱きしめることも許されない――――そんな事実を受け入れることができなかった。
愛しい人を失ってしまってからずっと、俺の世界からは色が失われていたんだよ」

「……私も同じ気持ちです」


 中宮の死後、前世の清香は抜け殻のようになってしまった。
 元のように働くことなどとてもできなかったし、活き活きと生活なんてできようはずもない。

 おまけに、後宮は中宮との思い出で溢れている。あの後、清香が内裏に参上したのは一度きりで、以後二度と、戻ることはなかった。涙にぬれ伏して使い物にならないため、戻りたくても戻れなかったのである。

 だから、その後の東條――――帝の様子を、清香は人伝にしか知らない。
 けれど本人から語られる悲しみ、想いというものは、清香の想像以上に重かった。