薙野清香の【平安・現世】回顧録

 夏の日が落ちるのは遅い。公園は未だ、夕闇と光りのはざまで揺れている。


(夏は……夜)


 前世で自身の綴った言葉を思い返しながら、清香は小さく笑う。
 現世においても四季や自然の素晴らしさはちっとも色褪せることなく、清香に寄り添い続けている。


(まあ、さすがにこんなところに蛍は飛んでいないだろうけど)


 そんなことを考えながら、清香はゆっくりと公園を歩き続けた。


「あっ……」


 東條は指定された場所に既にいた。彼は清香を認めると、こちらに向かって手を振る。


(崇臣は……と)


 念のため周囲を見回してみたものの、崇臣の姿は見当たらない。清香はほっとため息を吐きながら、東條の元へ向かった。


「急にお呼び立てしてすみません」

「いえ。それで今日はどのような……」


 清香は言いながらひっそりと息を呑んだ。
 今宵の東條はいつもの顔つきとは違っている。
 悲しみや苦しみ、いろんなことを経験し、一つの人生を全うした……そんな大人の男性のように見えた。


「君と話がしたかったんだ……右近」


 東條はそう言って真っすぐに清香を――清香の中の右近を見つめた。
 右近というのは、清香の前世での通り名である。