薙野清香の【平安・現世】回顧録

「お姉ちゃん、お願いだから、私との間にまで線を引かないで? 私たち、姉妹なんだよ? お姉ちゃんが私を支えてくれるみたいに、私だってお姉ちゃんの力になりたい。辛いことや迷ってることがあるなら私に言ってよ。何もできないかもしれないけど……話ならいくらでも聞くから」


 至極真剣な眼差しは、それが芹香の本心であることを物語っている。清香の瞳に涙が浮かびあがった。


(そんなこと、考えたことも無かった)


 清香にとっては芹香は、前世の尊き主人であり、崇拝の対象であり――――それから守るべき相手だった。
 前世では決して幸せな最期を迎えたわけではない芹香の現世を、幸せなものにする――――それが清香の生きる理由だと思っていた。


(それなのに)


 芹香は清香を支えたいのだという。まるで二人が対等であるかのように、迷いなくそう言ってのけるのだ。


「芹香と私は……姉妹」


 頬を伝う涙を拭いながら、清香は噛みしめるように口にする。


「そうだよ。お姉ちゃんが私を想ってくれるみたいに、私もお姉ちゃんを想ってるんだから。それを忘れないで、ね」


 芹香はそう言って、穏やかな表情で微笑んだ。

 清香の視界が涙で滲む。すると、涙のせいだろうか。芹香の中にいつも見えていた、前世の主人の姿が霞んで見えた。


(宮様……)


 心の中で呟くと、美しく聡明な清香の記憶の中の一人の姫君が優しく笑う。


(私、行ってきます)


 清香が告げる。
 すると、中宮は満足げに笑い、それから消えた。