薙野清香の【平安・現世】回顧録

(全く、どうしたものか)


 このままでは、状況はドンドン悪くなっていく一方だ。とにかく早く帰ってほしい――――さっさとこの場を治めてしまいたい一心で、清香がスマートフォンを取り出す。


(仕方がない、よね)


 崇臣と立花、二人を同時に相手にするよりずっと良い。
 そんなふうに自分に言い訳をしながら、清香はちらりと顔を上げた。


「あっ」


 けれどその瞬間、清香のスマートフォンが大きく弧を描く。そしてそれは、崇臣の手の中に納まっていた。


「ちょっと崇臣!」

「水族館なら俺が連れて行ってやる」


 清香の抗議の声に被せるように崇臣が言う。真に迫る真剣な表情だ。こんなにも必死な崇臣の顔は、前世を含め、これまで見たことがない。


(なっ……なによ! いっつも余裕しゃくしゃくで、無駄に涼しい瞳をしているくせに)


 清香の心臓がバクバクと激しく揺れ動く。
 崇臣の眼差しが燃えるように熱い。
 立花は何も言わず、二人の様子をただ見つめていた。


(私、どうしたら良いんだろう)


 正解がちっとも分からない。むしろ、時間が経てば経つほどに分からなくなっていく。
 困惑の渦中にいる清香のことを、本棚の隙間から、芹香と東條がそっと見つめていた。