薙野清香の【平安・現世】回顧録

 崇臣は、今日も変わらず無愛想だった。


(立花がいるから余計にそう思うのかもしれないけど)

 
 愛想がいい人間と無愛想な人間――――対象的な人間が二人集まるとどうしても差を感じやすい。清香はチラリと崇臣のことを見遣る。


「――――昨日も見た顔だな」


 東條の背後から立花を覗き見つつ、崇臣が呟く。どことなく不機嫌な物言い。それはとても小さな声音だったが、しっかりと清香の耳に届いた。ビクリと身体を震わせつつ、清香は思わず笑顔を取り繕う。


「えっと……こちら立花さん。元々この店の常連だったみたいで、今日も本を見に来たんだって」


 何故だろう? まるで浮気の言い訳をしているような気分だ。

 現状、どちらと付き合っているわけでもなく、やましいことは全くない―――――ないはずなのだが、妙な気まずさが清香を襲う。崇臣の突き刺すような視線が痛かった。


「どうも、立花です。清香ちゃん、そちらの方は?」


 立花はその場で頭を下げると、清香に軽く目配せをする。
 どうやら立花には思う所は何もないらしい。変に遜ることも驕ることもないので、清香としては気が楽だった。