薙野清香の【平安・現世】回顧録

(どうしたら良いんだろう)


 立花と一緒にいれば、まるで解答の分かっているテストに答えを書き込むような――――簡単で平穏な人生を歩めるのかもしれない。

 けれど、清香の頭の中には崇臣がいる。清香を見つめながら、無愛想な顔をクシャッと綻ばせるのだ。
 崇臣の、清香だけに見せる表情があまりにも愛おしい。彼を想うだけで、清香の瞳には涙が滲むのだ。


(別に、崇臣には私の気持ちを伝えたわけじゃない)


 だから、これからどの道を進もうと、彼に責められるいわれはない。言い訳ならいくらでもできる。

 けれど、崇臣の気持ちを清香は既に知っている。
 もう随分昔のことに感じられるが、彼から告白を受けたのは、まだほんの数か月前の出来事だ。

 とはいえ、二人の中で何かが始まったわけではない。今ならまだ、いくらでも引き返せるだろう。


(でも……どうして? 気持ちが前に進まない)


 ふと見れば、立花は隣に予備の椅子を並べ、ニコニコと清香を見つめていた。
 彼が何をしたいのか――――本気で清香と近づきたいと思っているのか、よくわからない。

 答えを求めて、清香がチラリと立花を見る。すると、彼は人懐っこい、豪快な笑みを浮かべた。