(いや、あんたはせめて目を逸らすとかしなさいよ)


 心の中で悪態を吐きながら、清香がげんなりした表情を浮かべてしまう。

 溢れんばかりの敵意からさらに溢れんばかりの好意へ。今の紫は、本当に手のひら返しという言葉がぴったり来る。
 しかし一方で、今の彼女の態度はまるで、自分の芹香に対する態度を客観視しているようだった。


(うーーん……私もなぁ、少しは態度を改めないと)


 もしかすると、芹香に鬱陶しく思われているのだろうか。そんなことを頭の隅っこで考える。

 けれど、崇臣は相変わらず、間近で清香を見つめ続けていて。そのせいで清香の心臓は、うるさく鳴り続けていた。


(平常心! 平常心!)


 心の中で唱えるが、残念ながら思考のネタが尽きかけている。
 これでは誤魔化しようがない。崇臣の熱い眼差しも、清香自身の感情も。


「きよ……」


 崇臣がそう口を開きかけたとき、来店を告げるベルが鳴り響いた。