「本当、一般企業の働き方じゃできない贅沢よね」


 清香はそっと崇臣の隣に移動した。


「まぁな。清香、この棚は?」

「あぁ。店主がね、平安時代に造詣が深いせいなのか、あの時代に関する本が一杯集まるのよ」


 崇臣が指した棚はすべて、前世で清香たちが生きた時代――――平安時代に関する書物で埋め尽くされていた。
 その中には、清香が前世で書いた本に関する考察や、あの時代の歴史に関すること、紫が前世で書いた小説の現代語訳等も含まれている。


「――――ふぅん」


 崇臣はそう言って、分厚い歴史書を一冊手に取った。丁度、東條が帝をしていた頃のことが詳細に記された一冊だ。
 店番を任せてもらってすぐ、清香も目を通している。この本を一発で手に取れるとは、崇臣はやはり目が高い。


「これをいただこうか」

「……あんたもあの時代の歴史に興味があるの?」


 これまでのやり取りから、崇臣に前世の記憶がないことは明確だ。けれど、前世の自分が生きた時代に、何か思う所があるのかもしれない。清香の胸がトクンと跳ねる。