「まぁ、そういうわけだから! 別にあんたに興味が無いわけじゃないし、これからはもう少し態度を……」

「お姉さま……」

「…………は?」


 清香は思わず素っ頓狂な声を上げる。


(今、なんて言った!?)


 紫はポッと頬を染め、瞳をキラキラと輝かせながら清香のことを見つめ続けている。


「お姉さま!」


 聞こえなかったと思ったのか、紫はもう一度同じ言葉を繰り返し、清香に向かって抱き着いてきた。


(いや、お姉さまって何よ!?)


 背中にぞぞぞと寒気が走る。
 これまでとは違って、それは敵意から来るものではない。寧ろ真逆の性質のものだ。

 今や紫は、まるで恋する乙女のような表情を清香に向けていた。瞳をウルウルと輝かせ、うっとりと身を乗り出すその様は、中々のインパクトを放っている。
 どうやら、これまでの紫の態度は、清香への好意の裏返しだったらしい。清香はそんな風に結論付ける。


(いや、分からなくはない。好きな相手から見向きもされないってのは確かに辛い。辛いけど!)


 眉間に刻まれた皺を指で伸ばしながら、清香は唇をギザギザに引き結ぶ。


(手のひら返しがすごすぎて、私もう付いていけない~~~~!)


 これから待ち受ける受難な日々を思いつつ、清香は盛大なため息を吐いたのだった。