「嘘っ……」

「別に、このタイミングで嘘吐く理由なんてないでしょう?」

「だって! 人を認めるだなんて、あなたのプライドが許さないんじゃ……」

「プライド? そんなの気にしないわよ。だって、あなたが書く小説と、私の随筆じゃ全然性質が違うし」


 清香は思わず声を上げて笑う。
 なるほど、紫がこれまで清香に突っかかって来た理由の一端がようやくわかったような気がした。


「大体、人と比べたところで良いことなんて何にもないじゃない? 私じゃ小説は書けないもの。
それに、認めるだなんて、なんだか上から目線じゃない? 私はあなたのこと、素直にすごいと思っていたけど」


 そこまで言い終えると、清香は大きく伸びをする。心の中に詰まっていた何かを、ようやく吐き出せたような清々しい気分だった。


(なんて、それで紫が変わるとも思えないけど……って、ん?)


 ふと見ると、紫はふるふると唇を震わせながら、じっと清香を見つめている。


(っていうかこいつ、こんな顔をしていたのか)


 敵意が引っ込められた紫は、思ったよりも綺麗な顔立ちをしていた。これまでいつも不機嫌に皺を寄せたり、勝ち誇ったような笑みばかり見てきたせいで気づけなかった。あまりにも思いがけない真実だった。


(少しぐらいは、私に対する気持ちが変わったのかな?)


 未だ降り注がれる熱視線に気まずさを覚えながら、清香はそっと視線を逸らす。あまりの居たたまれなさに、彼女はそっと咳払いをした。