「ねぇ……私が宮さまや主上にばかりかまけてたのは本当だけど」

「そうでしょう! 知ってるわよ」

(いや、まだ最後まで言い終わってないんですけど)


 苦笑を浮かべながら清香はポリポリと頭を掻く。何処までも突っかかる様な物言いをする女だ。
 けれど、清香が伝えたいのはそんなことではない。清香はふぅとため息を吐いた。


「人の話は最後まで聞きなさいよ。私の一番は当然宮様だったけど! ……別に私は、あなたの作品に興味が無かったわけではないわよ?」

「……え?」


 清香の言葉に、紫は一気にトーンダウンした。
 どうやら本気で驚いているらしい。目をまん丸くし、口をポカンと開けている。


(何をそんなに驚くことがあるんだろう?)


 清香は再び小首を傾げた。


「新作が出たら毎回すぐにチェックしていたし、全部読んでた。あの頃はネットとかなかったから、ちゃんと網羅出来ていたかは実際の所はよくわからないけど、あんたの作品面白かったし」


 言いながら、清香がチラリと紫を見遣る。すると、紫は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
 そこから窺えるのは、いつもの剥き出しの敵意ではない。嬉しそうな悲しそうな、何とも言えない感情だ。