薙野清香の【平安・現世】回顧録

「黙って聞いていたら、本当に失礼な人ね。これは後世に残すべき素晴らしい仕事よ。……あなた、私に対しての無礼は構わないけど、他の人まで貶めるような発言は慎むべきじゃない? 気づいてないのかもしれないけど、正直どうかと思うわ」


 紫としては、清香だけを貶めたいのだろう。
 けれど、もし万が一、先ほどの紫の発言を他人が聞いていたとしたら、反感を買うことは間違いない。誰かを深く傷つける可能性だってある。紫はそれを自覚すべきだと清香は思った。


「それに……前から思っていたのだけど、私に構うのはそろそろ止めたら? 別に、そちらから仕掛けてこなければ、私があなたに関わることはないし。互いに良いことは何一つないと思うのだけど」


 先ほど受け取ったばかりの本を押し返し、清香はきっぱりと言い放った。


(残念。本当は続きが読みたかったのだけど……)


 下手にモノを受け取ったりしたら、揉め事の種を蒔くようなものだ。
 第一、清香としては今後、本当に紫と関わり合いたくない。


(あーーあ。こいつが初めからケンカ腰でなかったらなぁ)


 もしも二人、冷静に話せていたならば、もう少し違う結論になっていたかもしれない……そう思うと清香は少し残念だった。