薙野清香の【平安・現世】回顧録

「大体あなた、前世の記憶があるんでしょう?」


 紫はそう言って清香のことを指さしている。どうしても読書の邪魔をしたいらしい。
 清香はまた、ほんの少しだけ顔を上げた。


(もう、邪魔しないでよね)


 今は本を読むのに集中したい。
 しかし、紫の方はどうやら清香と話がしたいらしい。


(仕方がない)


 後でゆっくりと読み返すことを心に決め、清香はパタンと本を閉じた。


「それが何?」


 清香が尋ねると、紫は顔を真っ赤に染めた。


「何? じゃないわ! 記憶があるなら、どうしてそんなことをしているの?」


 紫の言葉に、清香は首を傾げる。


「そんなことって?」

「だーーかーーら! 本屋の店番なんてつまらない仕事よ!」

「……なんですって? 本屋の店番がつまらない?」


 何とも失礼な物言いに、清香の眉間に皺が刻まれた。
 いくら紫と関わり合いたくないとはいえ、さすがに聞き捨てならないセリフだ。紫のことを睨みつけつつ、清香はゆっくりと立ち上がった。