薙野清香の【平安・現世】回顧録

(本当、良いもの書くのよね)


 マイペースにページを捲りつつ、清香がほんのりと微笑む。

 前世からずっと、清香は紫の作品が好きだった。
 当の紫からは、清香の文章をぼろ糞にこき下ろされたし、毛嫌いされていたようだが、それでも新作が出ればそれを追うようにしていたのだ。


「どっ……どうなのよ?」


 紫が清香を覗き込みながら、眉間に皺を寄せている。近くに寄られ過ぎたせいで、本に影が落ちていた。


(読みづらいんですけどーー)


 これでは読書が進まない。清香は唇を尖らせながら、チラリと顔を上げた。


「……素直に面白いと思うけど」

「本当!?」


 紫はそう言って瞳を輝かせたが、すぐにパッと顔を背けた。

 ほんの一瞬だけ、敵意が和らいだような気がする。
 けれど、紫は既に、眉間に皺を寄せたいつもの表情へと戻っていた。


(気のせいか)


 小さくため息を吐きながら、清香は再び、本へと視線を戻した。