薙野清香の【平安・現世】回顧録

「なぁに、ずっとじゃないよ。夏の間だけのことさ。
常連さん達には申し訳ないけど、身体が言うことを効かないからねぇ」


 元々ここは、客の多い店ではない。けれど、清香を含め、常連客がたくさんおり、店主はそんな常連たちのために、80歳を過ぎた今でも毎日店を開け続けている。


「そっかぁ……だったらアルバイトとか募集してみたら?」

「う~~ん……夏限定って言うのも申し訳ないし、あんまりお給料はあげれないからねぇ」


 店主の言葉に清香はそっと唇を尖らせた。いつも人を気遣う彼らしいセリフだ。


 そういえば以前、この店で清香が本を売ったとき、相場よりもずっと高い値段で店主は買い取りをしてくれた。
 けれど、売値を釣り上げることはなく、買取額とほとんど変わらない値段で売りに出していた。これでは店主に利益は殆どない。人を雇う余裕などないはずだ。


(でもなぁ、惜しい……惜しすぎる)


 清香は唇を尖らせながら、心の中で唸り声を上げる。
 一時的なこととはいえ、清香のオアシスが失われてしまうのはあまりに忍びなかった。何とかならぬものかと、必死に考えを巡らせる。