(それに、あの頃と今とは違うから。私程度の文章力じゃ、職業作家としてはやっていけないはず)
人気作家として活躍した記憶は清香に残っているし、文章力だってあの頃と変わらない。
けれど、あの頃と今とでは状況は随分違っている。
平安の前世において、読み書きのできる人の数は限られていた。貴族や一部の金持ちしか、そういった教養を学ぶことができなかったし、紙自体が高級品だった。
だから当時は、どんなに素晴らしいことを思いついても、それを形として残すことができない人が一定数存在したのだ。
しかし、今では誰もが義務教育の間に読み書きを学び、己の考えを表現する場が与えられる。書くことも読むことも当たり前の時代なのだ。
そんな中で清香が、自分の文章力に自信があると胸を張って言うことはできなかった。
「……まぁ、まだ焦る必要もないだろう」
崇臣はそう言って、清香の頭をポンと撫でた。それは、いつもの憮然とした表情でも、意地悪な笑顔でもない。どことなく優し気な表情だった。
「うん」
返事をしながら、清香は再び歩きはじめる。靄がかかっていた思考に一筋の光が差したかのような、そんな気分だった。
人気作家として活躍した記憶は清香に残っているし、文章力だってあの頃と変わらない。
けれど、あの頃と今とでは状況は随分違っている。
平安の前世において、読み書きのできる人の数は限られていた。貴族や一部の金持ちしか、そういった教養を学ぶことができなかったし、紙自体が高級品だった。
だから当時は、どんなに素晴らしいことを思いついても、それを形として残すことができない人が一定数存在したのだ。
しかし、今では誰もが義務教育の間に読み書きを学び、己の考えを表現する場が与えられる。書くことも読むことも当たり前の時代なのだ。
そんな中で清香が、自分の文章力に自信があると胸を張って言うことはできなかった。
「……まぁ、まだ焦る必要もないだろう」
崇臣はそう言って、清香の頭をポンと撫でた。それは、いつもの憮然とした表情でも、意地悪な笑顔でもない。どことなく優し気な表情だった。
「うん」
返事をしながら、清香は再び歩きはじめる。靄がかかっていた思考に一筋の光が差したかのような、そんな気分だった。



