薙野清香の【平安・現世】回顧録

「将来、何をするか考えているのか?」

「――――――私の将来?」


 どうやら崇臣との未来を妄想していたのがバレたわけではないらしい。
 けれど、なんち答えれば良いのやら。呟きながら、清香はハタと立ち止まった。
 想定内だったのか、崇臣は特に驚くことも無く、清香の隣で立ち止まる。


「私……は」


 必死に頭を巡らすものの、次の言葉は清香の口を吐いて出ない。


(そんなこと、考えたことなかった)


 前世では芹香の側にいることが清香の仕事だった。芹香のことを一番に考え、彼女のために働いていればそれで良かった。
 その上で少しばかり書きものをして、たまたまそれが評価された。結果、それが仕事になった。


 けれど現世ではどうだろう。

 清香は芹香の妹だ。妹に仕えるなんてこと、世情を考えれば現実的ではない。今では女性が働くのは当たり前だし、芹香のために働くなんてことを両親が承諾するとも思えない。
 第一、それでは収入――外貨が得られない。生活ができないのだ。
 それでは意味がないし、仕事とは呼べないだろう。