薙野清香の【平安・現世】回顧録

「それに、内向きの仕事だけじゃ、将来所帯を持つときに困るからな。主とも話し合ってそう決めたのだ」

「ふぅん」


 清香は何の気なしに相槌を打った。
 けれど、何故だろう。体温が何故か、じわじわ、じわじわと上昇していく。彼の言葉が時間差で効いているのだ。


(バッカじゃないの、私! ……所帯って、そういうことじゃないから!)


 恐らく崇臣としては、何の気なしに『将来所帯を持つ』なんて発言をしたのだろう。
 それは別に清香との未来を指しているわけではない。断じてない。

 今の段階で清香が崇臣との未来を夢見るにはあまりに早すぎる。けれど、高鳴る心臓は自分では制御できない。清香はダラダラと汗を流しながら、平静を装った。


「……清香はどうなんだ?」

「へ⁉」


 あまりにも唐突な質問。清香が何を考えているか、バレてしまったのだろうか?
 動揺を隠せないまま、清香は素っ頓狂な声を上げる。崇臣はほんのりと首を傾げつつ、彼女の顔を覗き込んだ。