薙野清香の【平安・現世】回顧録

(しかし、そんなことまでしなくても生活は保障されそうなのに)


 執事というのは十分に立派な仕事だ。大きな屋敷ならば管理するだけで大変だろう。わざわざ本社の業務まで担う必要はない。
 そんな清香の疑問が顔に出ていたのだろう。崇臣はふっと小さく笑いながら、強く手を繋ぎなおした。


「いつか俺は、主の片腕になって働くのだ。今から鍛えておかねば、その位置を他の誰かにとって変わられてしまうだろう? だから、今のうちに屋敷以外の仕事も覚えるようにしているのだ」

「そうか……そうよね」


 崇臣としては、執事として共にあるよりも、東條を一番に支えられる人間になりたいのだろう。今は学生である東條の生活を支えるために、内向きの仕事を主にして。それから、東條が晴れて会社に入った時は、側近くで支えられるように。そう思って、自己研鑽を重ねているのだ。


(私、こいつのこういう所、結構好きなのよね)


 前世から崇臣という人間は変わらない。
 東條が常に一番で、彼のためならひたむきに自分を磨くし、口だけでなく行動で想いの強さを示す。清香の行動理念と被っているからということもあるが、昔からこの一点についてはずっと、清香は好感を抱いていた。