薙野清香の【平安・現世】回顧録

「それで? これで今日の目的は達成したわけだけど」


 さり気ない風を装って、清香が尋ねる。


(……本当は、もう少しだけ一緒にいたいんだけど)


 決して自分からそうとは言えない。が、清香はこっそりと心のなかでそう呟いた。
 この心地よく温かな時間がもう少し続いて欲しい。そんな気持ちを込めて、清香はそっと崇臣を見上げる。


「どうせなら飯ぐらい付き合え。こっちも折角の休日なんだ」


 崇臣はそう言って不敵な笑みを浮かべた。セクシーと表現するのがぴったりな、そんな表情だった。
 清香は堪らず唇をプルプルと震わせる。


(やばい……表情が)


 なんとも思っていない風を装いたかった清香だが、嬉しいものは嬉しい。結局堪えきれず、彼女ははにかむ様に笑った。


(やっぱりこいつ、大人よね)


 きっと、清香の考えなど、崇臣にはお見通しなのだろう。その上で、素直になれない清香に勝ちを譲ってくれる辺りが、同年代の男子とは違っている。崇臣との年齢差を感じずにはいられない瞬間だった。


(もっと知りたいな。今の……現世の崇臣のこと)


 そんな気持ちがふつふつと芽生える。清香はそっと身を乗り出した。