(どうしよう……崇臣の顔が見れない)


 顔を上げねばならないと分かっている。けれど清香は、どんな顔をすればいいか分からなかった。崇臣が今、どんな顔をしているのか、知りたくて知りたくなかった。


「今度こそ帰る。送ってくれて、ありがとう」


 清香は崇臣から顔が見えぬよう、俯きながらスクッと立ち上がった。


「いや……家まで送ろう」


 崇臣はそう言って立ち上がると、清香の手をそっと握った。清香の心臓が小さく跳ねた。


(またそういう……)


 振られてなお、崇臣の清香に対する距離感は変わらないらしい。異様に熱い手のひらを持て余しながら、清香は顔を顰めた。


「近いし、一人で大丈夫だから……」


 清香が手を払うと、崇臣は憮然とした表情のまま首を傾げた。


「俺のシャツ」


 崇臣が何を言わんとしているか分からず、清香がようやく顔を上げる。すると、崇臣は清香が先程まで泣き縋り、顔を埋めていた辺りを指さしていた。涙のせいで胸元には大きなシミが出来上がっている。