「昔はさ、偉い男の人には、何人も妻がいて当然だった。子を後世に残さなきゃいけないから……帝のいらっしゃる後宮や江戸の大奥なんかはその典型的な例ね。殆どが政治的な理由で婚姻しているけれど、その中で愛する人ができることもある。それは素敵なことよね」


 まるで自分に言い聞かせるかのように、清香が言葉を紡ぐ。崇臣はきちんと話を聞いてくれていたものの、無言を貫いていた。清香は困ったように笑うと、軽く目を瞑った。


「だけどね、別に愛情を注ぐ相手は一人じゃなくたって良いの。皆を愛したってかまわない。そっちの方が互いに幸せ。そう、分かっていたはずなのに……」


 気づけば清香の瞳からは、大粒の涙が流れ落ちていた。崇臣はそれに気づいているのだろう。けれど、ただ静かに隣に座っている。


「でも私はそんなの嫌‼主上が宮様以外の人を愛すなんて、そんなの嫌なの‼」


 一度口にしてしまえば、堰を切ったかのように止まらない。堪えきれず嗚咽を漏らしながら、清香が泣き叫んだ。
 崇臣は少しだけ驚いたようだが、動じることなく、いつもの憮然とした表情を貫いている。


(ダメ、止まらない)


 湧き上がる激情のままに涙を流しながら、清香はギュッと目を瞑った。