薙野清香の【平安・現世】回顧録

(やっぱり……!)


 読み進めていくうちに、清香の表情がみるみる曇っていく。

 そこには、清香にとってはあまり信じたくない、受け入れがたい事実が書かれていた。視界が涙で歪み、唇はギザギザに結ばれていた。


(嫌ッ。嫌よ!他の書物は? 間違いだって言ってよ)


 そんな願いを込めて、先ほどとは別の本を開く。けれど、どの本を見ても、清香の望む答えは書かれていない。寧ろ、目を背けたくなる言葉しか見つけることができなかった。


「おい、清香?」


 崇臣が清香の顔を覗き込む。きっと、傍から見れば相当な酷い顔をしているのだろう。いつも不愛想な崇臣の表情が、何か不思議なものを見るような、そんな風に変わっていた。


「……帰る」


 清香がそう呟くと、崇臣は何も言わずに本を元の書棚に戻してくれた。

 目頭が熱を持っていて辛い。ボロボロと流れ落ちる涙を拭うことすらできず、清香は呆然と佇む。
 やがて崇臣が本を片付けたのを見届けると、清香はそのまま図書館の出口に向かって歩き始めた。