薙野清香の【平安・現世】回顧録

 図書館は人も疎らで、とても静かだった。
 とはいえ避暑のために訪れている老人もいれば、熱心に勉学に励む学生もちらほら見受けられる。清香は足音を立てぬよう、急ぎ足で目的の書棚に向かった。

 幼いころから何度も足を運んでいる場所だ。今求めている情報がどこにあるのか、清香はよく知っている。書棚にたどり着くと、清香は早速目的の書物を引き抜いていった。


(相変わらず重っ)


 清香の引き抜くものは、どれも辞書ほどの厚さの分厚い書物だ。慣れているとはいえ、中々に重い。少しよろけた所で、清香の腕が唐突に軽くなった。


「ほら」


 崇臣が後ろから、清香の引き抜いた本を取り上げる。


(何故中まで付いてくる?)


 清香としては図書館に到着した時点で用済みで、とっくに帰っているものと思っていたのだが。


(……でもなぁ)


 車の中でも、二人に会話らしい会話は殆どなかった。
 送ってくれたお礼も言わず、車を飛び出した後ろめたさはあるし、崇臣に言ってやりたいことは色々ある。

 それに、清香の小柄な体で、分厚い本を何冊も抱えるのは大変だ。先を急ぐ今、崇臣を邪険にする理由は清香にはなかった。
 清香が他にも何冊か本を指さすと、崇臣は本を無言で引き抜き、腕に抱える。

 本を選び終えると、閲覧用のテーブルに移動し、清香は早速目当ての本の一つを手に取った。