薙野清香の【平安・現世】回顧録

「あっ」


 清香が家を飛び出すと、そこには見覚えのある車が停まっていた。崇臣の車だ。発進準備に手間取っているのか、今日は未だ帰っていなかったらしい。


(とはいえ、そんなのに構ってる暇、今はない)


 車を横目に、清香が走り出す。すると、清香に気づいたのだろうか。すぐに崇臣の車がゆっくりと走り始めた。


「出掛けるのか?」


 のろのろと清香に並走しながら崇臣が尋ねる。他に車がいないからまだ良いようなものを、大変な迷惑行為である。
 チラリと崇臣を見ると、狩衣を着るのは止めたのだろうか。小ざっぱりした現代の服装に身を包んでいた。夏バテのせいか、少し頬がこけたようにも見える。


(随分と久しぶりな気がする)


 そんな考えが頭を過るが、感傷に浸っているだけの時間は清香にはない。頭を横に振りながら、清香は走り続けた。


「そうよ! 急いでるの! だから今日はこれで……」

「だったら乗っていけ。連れて行ってやる」


 崇臣はそう言って、清香の向かう少し先に車を停めた。