「ほら、否定できないだろう」


 崇臣が清香を見下ろしながら言う。背後には吸い込まれそうな程に、美しく艶やかな景色が広がっている。


「……そうね。あなたの言う通りよ」


 清香は呟くように、そう言った。崇臣の顔が近づいてくる。けれど清香は険しい表情で首を横に振ると、崇臣の肩を押した。


「だけど……残念。私の運命はあなたとは交わらないの」


 憂いを帯びた表情のまま、清香は笑った。瞳には薄っすらと涙が滲む。心が張り裂けそうな想いに清香は身を捩った。
 霞む視界の中、一つ先のゴンドラ、観覧車のてっぺんで、二つの影が一つに重なったのが見える。芹香と東條を乗せたゴンドラだ。


(そう……運命とは確かに存在している…………)


 芹香と東條の運命が交わる様子を、清香は微笑みながら見守る。崇臣は清香の視線の先を見つめ、それから清香自身を見つめた。


「運命など、誰にも分らないだろう?」


 崇臣はそう言って眉間に皺を寄せる。ゴンドラはゆっくりと、けれど確実に進み続けていた。


「分かるわ。少なくとも自分の運命は、私には分かる」


 清香はそう言って、穏やかで、頑なな笑みを浮かべた。
 それから、崇臣は何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わなかった。二人のゴンドラは突き刺すような静寂に包まれる。
 いつの間にか空は、穏やかなオレンジから暗闇へと移り変わっていた。