薙野清香の【平安・現世】回顧録

 唐突な口づけから程なくして、清香と崇臣は、戻って来た他のメンバーと合流した。
 心配そうな表情の芹香に、もう平気だからと伝えたものの。清香の心と身体はちっとも平気ではなかった。


(この男も……どうかしてるとしか思えない)


 あんな往来の多い場所で、崇臣があんな行動に出るとは、さすがの清香も思っていなかった。崇臣はその後も終始、何事もなかったかのようなケロっとした表情を浮かべていて。未だ崇臣の真意について、清香は確認できていない。


(いや……私が知らなかっただけで、実はこいつ、案外遊び人だったのかもしれない)


 清香はぼんやりと、そんなことを考えた。

 清香の中の前世の崇臣は、浮いたの噂の全くない、堅物といった印象だった。
 恋愛――婚家の力が出世に響くあの時代において、それは異色といっても過言ではない。頭の中将という花形の位まで出世が叶ったのは、ひとえに東條――帝の意向があったからだ。少なくとも清香は、これまでずっと、そう思っていた。


(実は、陰でどっかの名家が後押ししてたとか……そっちの方が寧ろしっくりくる)


 ぼんやりと料理をつつきながら、清香はそんな風に考えを巡らせる。
 だが、次の瞬間。清香のフォークは大きな弧を描いた。清香の口に運ばれるはずだった料理が何故か、隣の男の口へと吸い込まれていく。清香があんぐりと口を開いている横で、無表情の崇臣がモグモグと口を動かしていた。