十分ほどかけて息を整え、戻ってみると副社長の姿はなかった。
スケジュールを確認すると夕方からグループ企業との会議が入っていて、外出の予定となっている。

「上司のスケジュールも把握できないなんて最低ね」
弱っているせいか、つい自虐的な言葉が口を出た。

入社したての頃はビクビクしていたけれど、最近では何でも話せるまでに打ち解けいていた副社長との関係。
それがあっという間に壊れてしまった。

トントン。
「失礼するよ」
ノックとともに入って来た谷口課長。

「坂本さん、大丈夫?体調が悪いんだって?」

「すみません」
さすがにお酒のせいでとはいえず、小さくなるしかない。

「創介が坂本さんの体調が悪いから帰らせてくれって連絡してきたんだ」
「課長にですか?すみません。でも、大丈夫ですから」

終業まであと二時間弱。
今日は仕事もはかどっていないから少しでも進めておきたい。

「このまま早退するか、定時まで頑張って俺に送られるか、どっちがいい?」
「ええー」

それってある意味究極の選択。

「創介もうるさいからさあ、このまま定時まで残して電車で帰らせたとわかると、きっと怒るしね」

まあ確かにそうだろうけれど。でも、だからって・・・

「僕はどっちでもいいけれど?」
さあどうすると課長が見る。

「わかりました、帰ります」
さすがにこの上課長の手を煩わせることはできない。

「じゃあ、気を付けて帰ってね」
「はい、お疲れさまでした」

なぜがニコニコしている谷口課長を残し、私は職場を後にした。