暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

「俺との約束はキャンセルするくせに、圭史とは飲みに行くんだな」
「ですから、それは・・・」

そもそも昨日は綾香さんが創介副社長を誘いにいらして、私との食事はとりやめになった。
私との約束よりも取引先のお嬢さんである綾香さんのお誘いが優先だろうし、それは副社長も同じ考えなのだろうと思っていた。
私から言わせれば、キャンセルは副社長側の都合に思える。

「大体酒が強くないのに飲むからこんなことになるんだろ?」

そう言って創介副社長が指さしたのは私のデスク。
そこには昼食が食べられない代わりに買ってきたお茶とお水のペットボトルが並んでいる。
きっと、お酒を飲んだせいで食事もとれず仕事にもならない私へのお𠮟りだ。

「すみません」
そこは自己管理の甘さと謝るしかない。

せっかく少しは打ち解けられたと思ったのに、油断するとこの始末。
綾香さんのこともあるし、こんな調子ではいつまで副社長秘書が続けられるかわからないなと、久しぶりに落ち込んだ。
もしここで働けなくなったら、私はどうするんだろう?
どこかに配属替えをしてもらうか、一条プリンスホテルを辞めるかどちらかしかない。
本当にそうなったら・・・
不意に、昨夜の圭史先輩の言葉がよみがえった。

「来週また予約をとるから、今度はキャンセルするなよ」
「え?それって・・・」

京懐石の予約ってことだろうか?
でも、それはまずいと思う。
きっと綾香さんが嫌がると・・・

「鱧、食べたいんだろ?」

確かに鱧は食べたいけれど、そう単純な話ではない。

「あの、副社長」

私は副社長のデスクの前まで行って、まっすぐに目を合わせた。